鶏の平飼いとは?特徴やメリット・デメリット、ケージ飼いとの違いを解説

「平飼い」という言葉を耳にする機会が増えましたが、正確な定義や基準まで理解している経営者は多くありません。平飼いは、鶏をケージに入れず自由に運動させる飼育方法で、鶏の健康や卵の品質、ブランドの差別化にもつながる選択肢です。
一方で、平飼いの導入には手間やコストといった課題も伴います。本記事では、平飼いの基準やメリット・デメリット、ケージ飼い・放し飼いとの違いを整理したうえで、快適な鶏舎環境を保つために欠かせない暑さ対策についても解説します。
平飼いとは
平飼いとは、鶏をケージに入れず、鶏舎内や屋外の地面で自由に動き回れるようにする飼育方法です。金網のケージに閉じ込めるケージ飼いとは異なり、鶏は本来の習性のまま暮らせます。
たとえば、地面をつついて餌を探したり、砂浴びをしたり、止まり木で羽を休めたりできます。狭いケージの中では、こうした行動はほとんどできません。
近年は、動物の生活の質に配慮する考え方である「アニマルウェルフェア」の観点からも注目されています。
なお、平飼いには、大きく分けて3つの形式があります。
- 屋根のある鶏舎内だけで飼育する方法
- 屋根のない屋外だけで飼育する方法
- 屋根のある鶏舎に屋外運動場を組み合わせた方法
どの形式を選ぶかによって、必要な設備や日々の管理の手間も変わってきます。
平飼いの基準・規定
実は「平飼い」という言葉には、法律上統一された定義がありません。生産者ごとに飼育環境が異なるため、パッケージに「平飼い」と表示されていても、その実態はさまざまです。
では、どのような基準を満たせば「平飼い」と名乗れるのでしょうか。ここでは、比較的明確な基準がある「有機JAS」と、業界の自主ルールである「鶏卵の表示に関する公正競争規約」の2つを確認しておきましょう。
有機JASにおける規定
有機JASは、平飼いのなかでも最も厳しい基準のひとつです。国が定める有機農産物・有機畜産物の生産基準で、認証を受けた生産者だけが「有機JASマーク」を表示できます。
有機畜産物の日本農林規格では、鶏の特性や群れの大きさに応じた止まり木などの休息場所を設けることが求められています。また、28日齢以降の鶏には、1羽あたり0.15㎡以上の飼育面積を確保することも条件のひとつです。
さらに、家畜や家きんを野外の飼育場へ自由に出入りさせることも欠かせません。ただし、週2回以上の放牧、または区画された運動場所を備えた鶏舎で飼育する場合は、鶏が常に野外へ自由に出入りできる環境を設ける必要はないとされています。
こうした具体的な数値基準があることで、有機JASの平飼いは質の高さが裏付けられているといえます。
出典:農林水産省「有機畜産物の日本農林規格(JAS1608)」(https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-558.pdf)
業界における自主ルール
法律上の定義がない一方で、鶏卵業界には独自の表示ルールがあります。鶏卵公正取引協議会が定める公正競争規約では、パッケージに「平飼い」と表示するために、鶏舎内または屋外で鶏が床面や地面を自由に運動できるように飼育することを条件としています。
また「放し飼い」と表示するには、平飼いのうち、日中の過半を屋外で飼育していることが必要です。なかでも「放し飼い(特定飼育卵)」と表示する場合は、120日齢以降の鶏を1㎡あたり5羽以下で飼育することが定められています。
ただし、この基準は、鳥インフルエンザ対策としての屋外放牧に対する規制とは別の枠組みです。防疫の観点から屋外放牧には慎重な対応が求められる一方、表示上の区分としては現在も存在しています。
有機JASが面積基準を数値で定めているのに対し、この規約は「自由に運動できる環境かどうか」を条件にしている点が大きな違いです。
出典:鶏卵公正取引協議会「鶏卵の表示に関する公正競争規約及び施行規則(令和6年7月16日)」(https://www.jpa.or.jp/keiran_root/pdf/rules202407_01.pdf)
平飼いのメリット
平飼いが注目される理由は、鶏に配慮した飼育方法であることだけではありません。経営面でも、さまざまなメリットがあります。
とくに価格競争が激しい鶏卵市場では、自社ブランドの価値を高めることが多くの経営者にとって課題です。ここでは、平飼いの代表的な3つのメリットを紹介します。
鶏にストレスがかかりにくい
平飼いの鶏は、地面をつついたり砂浴びをしたりと、本来の習性に沿った行動をしやすい飼育方法です。そのため、ケージ飼いと比べてストレスがかかりにくいとされています。
ストレスの少ない環境は、鶏の健康維持にもつながります。病気のリスクを抑えやすい点は、生産者にとってもメリットです。
また、適度に運動することで、鶏の体力も維持しやすくなります。健康な状態を保つことは、卵の品質にもよい影響を与えると考えられています。
希少価値が高く差別化しやすい
日本では、ケージフリー(平飼いを含む)で飼育されている鶏の割合は、2023年時点でわずか1.11%にとどまります。残りの98.89%はケージ飼いが占めているのが現状です。
平飼いを導入している農場自体が少ないため、生産される卵は希少性が高く、ほかの卵との差別化を図りやすいというメリットがあります。飲食店やスーパーで平飼い卵の価格が高めに設定されているのも、この希少性の裏付けといえるでしょう。
出典:認定NPO法人アニマルライツセンター「日本のケージフリー飼育の鶏の割合は1.11%、ケージ飼育が98.89%(2023年調査結果)」(https://arcj.org/issues/farm-animals/layer-chicken/1percent-cage-free/)
アニマルウェルフェアに配慮できる
世界では、家畜の生活の質に配慮するアニマルウェルフェアの考え方が広がっています。欧州連合(EU)では2012年から、従来型のケージでの飼育が禁止されているほどです。
アジアでも、韓国は4.6%、インドは22%、インドネシアは12%がケージフリーとされており、1.11%にとどまる日本の遅れは国際的に見ても際立っています。
平飼いへの転換は、こうした国際的な潮流に沿った、持続可能な経営への備えにもなるでしょう。
欧米ではすでに1,400社以上の企業が、平飼いや放牧で生産された卵のみを使用する方針を掲げているとの報告もあります。日本国内でもこの方針を掲げている企業は一定数おり、消費者の選択肢は広がりつつあります。
平飼いのデメリット
平飼いのよい面だけでなく、デメリットも正しく理解しておくことが、後悔のない経営判断につながります。ここでは代表的な3つのデメリットを解説します。
管理が行き届きにくい可能性がある
鶏舎内を自由に動き回れる分、ケージ飼いのように1羽ずつ管理することが難しくなります。フンの上を歩くことによる衛生面の課題や、病気の発見が遅れる可能性もあるでしょう。
数千羽規模の鶏舎では、何らかのきっかけで鶏が興奮状態になり、折り重なって圧死してしまうリスクも指摘されています。日々の見回りや群れの大きさの管理が欠かせません。
害虫を食べる可能性がある
平飼いの鶏は地面をつついて餌を探すため、意図せず土中の害虫を食べてしまうことがあります。摂取したものは、鶏の体や卵にも影響を及ぼすおそれもあります。
とくに卵を生で食べる場合は、飼育環境の衛生管理に注意が必要です。床材を清潔に管理し、鶏舎内の衛生状態を保つ工夫が大切です。
コストが高くなりやすい
平飼いは、ケージ飼いよりも広い土地や設備が必要です。同じ羽数を飼育する場合でも、鶏が自由に動き回れるスペースを確保する分、必要な鶏舎の床面積は広くなり、日々の管理にかかる人件費もかさみます。
土地・設備・人件費という3つのコストが重なることで、生産効率は下がりやすくなります。卵の販売価格は、ケージ飼いと比べておよそ1.8倍から2倍以上まで高くなるとの試算もあります。
平飼いとケージ飼い・放し飼いの違い
ここまで見てきた平飼いの特徴を踏まえ、ケージ飼い・放し飼いとの違いを整理しておきましょう。日本では、飼育されている鶏の90%以上がケージ飼いである一方、平飼いと放し飼いを合わせた割合はわずか1.11%にとどまります。
それぞれに一長一短があるため、どれが優れているというよりも、自社の経営方針や設備に合った方法を選ぶことが大切です。
ケージ飼いとは
ケージ飼いは、日本で最も広く採用されている飼育方法です。
ケージ飼いの特徴
ケージ飼いは、金網でできたケージの中で鶏を飼育する方法です。日本の採卵鶏の90%以上を占めています。
ケージを積み重ねて飼育できるため、少ない面積で多くの鶏を管理できる点が特徴です。給餌や集卵などの作業がしやすく、フンの処理もしやすいことから、衛生管理や生産コストの面で優れています。
個体ごとの識別がしやすく、病気を早期発見しやすい点もメリットです。一方で、鶏がケージの中で自由に動き回れないため、ストレスがかかりやすいという課題もあります。
放し飼いとは
放し飼いは、平飼いのなかでも、とくに屋外で過ごす時間が長い飼育方法を指します。
放し飼いの特徴
放し飼いは、屋根のある鶏舎ではなく、屋根のない屋外に設けた放牧場で鶏を飼育する方法です。平飼いのなかでも、日中の過半を屋外で過ごす点が特徴です。
放牧場の周囲には、鶏の脱柵や、キツネやイタチなどの害獣の侵入を防ぐためのフェンスや電気柵を設置する必要があります。なお、鳥インフルエンザの発生以降、野鳥や野生動物と接触するおそれのある屋外飼育には、家畜保健衛生所の指導により厳しい制限が設けられています。
防疫の観点から実施は難しくなっている一方、表示上の区分としては今も残っています。なお、EUでは屋外飼育の密度について1㎡あたり9羽以下という基準がありますが、日本には現時点でこうした数値基準はありません。
快適な平飼い環境には暑熱対策も重要!
平飼いは、鶏が自由に動き回れる分、ケージ飼いに比べて鶏舎の床面積や屋根面積が広くなりがちです。そのため夏場は、屋根に蓄えられた熱が室内に降り注ぐ「輻射熱(ふくしゃねつ)」の影響を受けやすくなります。
その結果、鶏舎内の温度が上がりやすくなります。採卵鶏は気温が27℃を超える頃から餌の摂取量が減り始めるとされ、暑さが続くほど産卵率の低下や卵質の悪化、鶏の死亡リスクの増加につながる可能性があります。
こうした輻射熱への対策に効果的なのが、屋根への遮熱塗装です。
屋根表面の温度上昇を抑えることで、鶏舎内の温度上昇を抑え、暑さによる採食量の減少や卵質の低下を防げます。鶏の生存率向上だけでなく、飼料の無駄を減らして生産コストを抑えることにもつながるため、経営面でも重要な対策です。
石灰散布のような一時的な対応とは異なり、耐久性の高い遮熱塗装は、長期にわたって鶏舎内の環境を安定させやすくなります。平飼いによる付加価値と生産性の両立を後押しする、選択肢のひとつといえるでしょう。
出典:神奈川県県央家畜保健衛生所「家畜保健衛生だより」(https://www.pref.kanagawa.jp/documents/23408/tayori202007.pdf)
こちらの記事では、鶏舎でできる暑さ対策について解説しています。鶏や従業員を熱中症から守る方法や、折板屋根と輻射熱の関係も取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
まとめ
平飼いは、鶏の習性に沿った飼育方法として、アニマルウェルフェアや卵の差別化につながる一方、衛生管理やコスト、夏場の暑さ対策など、経営者として向き合うべき課題もあります。
なかでも鶏舎の温度管理は、鶏の健康と生産性を左右する重要なポイントです。気温の変化に対応できる環境を整えることが、平飼いによる付加価値を安定した生産につなげる土台となります。
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