アニマルウェルフェアとは?日本の現在と普及へのステップ

「アニマルウェルフェア」という言葉を耳にする機会が増えてきました。しかし、具体的に何をすればよいのかわからず、コストばかりが増えるのではないかと感じている畜産経営者の方も多いのではないでしょうか。
アニマルウェルフェアは、単なる動物愛護ではなく、家畜の健康を守り、経営の持続性を高めるための実践的な指針です。取引先や消費者からの信頼を得る土台にもなりつつあります。このコラムでは、基本的な考え方から日本の現状、導入によるメリットまでをわかりやすく解説します。
アニマルウェルフェアとは?
アニマルウェルフェアとは、家畜を快適な環境下で飼養し、動物本来のあり方で暮らせるようにする考え方です。国際獣疫事務局(WOAH、旧称OIE)の勧告では「動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態」と定義されています。
農林水産省では、より現場に即した表現として「快適性に配慮した家畜の飼養管理」という言葉を用いています。難しい設備投資を求めるものではなく、生産者一人ひとりが家畜の快適性を意識し、日々の飼養管理に取り入れていくことが基本です。
似た言葉に動物愛護やアニマルライツがありますが、考え方は異なります。動物愛護は人間の感情を主体とする考え方であるのに対し、アニマルライツは動物の利用そのものを否定する思想です。
アニマルウェルフェアは、動物を主体としながらも、人間が動物を利用することを前提としたうえで、科学的な視点からストレスを取り除いていく考え方であり、畜産物の生産・利用自体を否定するものではありません。
出典:農林水産省「国際獣疫事務局の陸生動物衛生規約におけるアニマルウェルフェアの国際基準を踏まえた家畜の飼養管理の推進について」(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-138.pdf)
アニマルウェルフェアの基本「5つの自由」とは
アニマルウェルフェアの基本原則として、国際的に広く用いられているのが「5つの自由」です。1960年代のイギリスで提唱されて以来、世界各国の指針の土台となっており、日本の飼養管理指針もこの考え方をもとに策定されています。
5つの自由は決して難しいものではありません。特別な設備を求めるものでもなく、日々の飼養管理のなかで意識できる項目ばかりです。ひとつずつ確認していきましょう。
1.飢えと渇きからの自由
家畜の生理的な要求を満たす量と質を備えた飼料、そしていつでもきれいな水を与えることです。栄養不足は健康を損ない、さまざまな病気の原因にもなります。農林水産省の調査でも、給餌・給水設備を適切に設置している農場は9割を超えており、基本的な取り組みとして広く定着しています。
2.不快からの自由
清潔な休息場所を用意し、暑熱・寒冷への対策を行うことです。強い日差しや雨風を防げる環境を整えることで、家畜のストレスを軽減し、生産性の低下を抑えられます。
国の指針では、畜種ごとの適温域の目安も示されています。乳用牛は10〜20℃、採卵鶏は15〜20℃が目安とされ、気温と湿度を組み合わせた指数によって、暑熱対策の要否を判断する方法も紹介されています。
3.痛み・傷害・病気からの自由
除角や去勢を行う際は、できるだけ若齢のうちに、必要に応じて獣医師が麻酔薬を投与したうえで行い、病気やけがには早期に対応することが求められます。牛の除角であれば生後2か月以内が目安とされ、角が生えそろったあとに行う場合は、必ず麻酔を使用することが原則です。
4.恐怖や抑圧からの自由
捕鳥の際に首や翼の先端を持たないなど、丁寧に取り扱うことで、家畜に不要な恐怖やストレスを与えないようにすることです。採卵鶏のくちばしの一部を切除する際も、痛みを最小限に抑え、必要な範囲にとどめることが求められています。
5.正常な行動を表現する自由
鶏であれば羽ばたきや砂浴び、豚であれば横臥といったその動物本来の行動が取れるだけの空間や機会を与えることです。必要な広さの目安は、体重に応じた計算式が指針に示されています。
アニマルウェルフェアにおける日本と世界の現状
日本におけるアニマルウェルフェアへの対応は、国際的にはまだ発展途上にあるとされています。畜種ごとの飼養方式や海外との違いを知ることは、自社の現在地を確認するうえでも役立ちます。
日本の畜産業界が抱える現状と課題
令和6年度に農林水産省が実施した調査によると、乳用牛・豚・採卵鶏など、いずれの畜種でも「1日1回以上、家畜の飼養環境や健康状態を確認している」という項目では、9割以上の生産者が実施しているという結果でした。一方で、危機管理マニュアルの整備・習熟など、災害時の備えに関する項目は実施率が低く、今後の課題として残されています。
国際的な動物保護指数では、日本は評価対象国のなかで最も低い区分に位置づけられており、法整備の遅れが要因とされています。
出典:農林水産省「令和6年度『アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針』の取組状況に係る調査の結果について(概要版)」(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-112.pdf)
こちらの記事では、畜産業の課題について解説しています。課題の背景や業界全体で進む具体的な対策も取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
採卵鶏
同調査では、回答した採卵鶏農場のうち、ケージ飼養のみの農場が74.5%、ケージ飼養と平飼いを併用する農場が11.0%にのぼり、合わせて85%を超える農場がケージを活用していることがわかりました。平飼いのみの農場は14.5%にとどまっており、飼養方式としては依然としてケージが中心となっています。
出典:農林水産省「令和6年度『アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針』の取組状況に係る調査 採卵鶏の結果(詳細版)」(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-116.pdf)
養豚
養豚では、繁殖雌豚をストールで個別に飼育する単飼方式や、複数頭をともに飼う群飼方式などがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。国の指針でも、いずれか一方を禁止するのではなく、それぞれの経営環境に応じた水準の向上が求められています。
令和6年度の調査では「1日1回以上、豚の健康状態を確認している」農場が100%、去勢の際に痛みを抑える方法を取っている農場が96.6%にのぼりました。一方、チェックリストを用いて定期的にアニマルウェルフェアの状態を確認している農場は67.4%にとどまり、日々のケアは浸透しているものの、体系的な振り返りは今後の課題です。
乳用牛・肉用牛
牛については、つなぎ飼い・放し飼い・放牧の各方式が用いられます。つなぎ飼いの場合は、つながれていない状態で運動できる時間を定期的に確保することが、アニマルウェルフェアの観点から重要とされています。
同じ調査では、つなぎ飼いの牛が十分に運動できているとする項目は、乳用牛で46.6%、肉用牛で71.2%にとどまり、飼養方式による差も見られました。健康確認はいずれも99%を超える農場で実施されています。
法規制が先行するEUの先進事例
EUでは2012年から、身動きが取りにくい従来型のケージによる飼育を禁止し、止まり木や巣箱などを備えた「エンリッチドケージ」への移行を義務化しました。近年はケージ飼養そのものを廃止する声も高まっており、平飼いやケージフリーへの移行に向けた検討がさらに進められています。
出典:European Commission「Laying hens」(https://food.ec.europa.eu/animals/animal-welfare/eu-animal-welfare-legislation/animal-welfare-farm/laying-hens_en)
その他諸外国の取り組み
オーストラリアでは2023年、全州・準州が合意する形で新たな飼養管理基準が策定され、バタリーケージについては2036年までに段階的に廃止する方針が示されました。国土や気候の違いを踏まえ、各国がそれぞれのペースで水準の向上に取り組んでいる状況です。
出典:Australian Government「Australian Animal Welfare Standards and Guidelines for Poultry」(https://www.agriculture.gov.au/agriculture-land/animal/welfare/standards-guidelines/poultry)
アニマルウェルフェアが求められる背景と日本で浸透しない理由
アニマルウェルフェアが求められる背景には、動物福祉への関心の高まり、国際的な基準への対応、持続可能な畜産への転換などの動きがあります。また、畜産業の持続的な発展に向けた重要な取り組みとしても注目されています。
世界的にアニマルウェルフェアへの関心が高まる一方で、日本国内での普及には、いくつかの構造的な壁があります。なぜ日本では取り組みが広がりにくいのでしょうか。
消費者の認知度が低く価格転嫁への理解が得られにくい
日本政策金融公庫の調査によると、食肉や卵、牛乳を購入する際に「価格」や「鮮度」を気にすると回答した割合は、いずれの品目でも90%を超える一方で「どのような環境で飼育しているか」を気にすると回答した割合は20%台にとどまりました。
飼育環境に配慮した商品は相対的に価格が高くなりやすいため、消費者の理解が追いついていないことが、価格転嫁を難しくしている一因といえます。
出典:日本政策金融公庫「消費者動向調査(令和6年1月調査)特別調査」(https://www.jfc.go.jp/n/release/pdf/topics_240321a.pdf)
義務化・法制化ではなく自主的な取り組みに留まっている
農林水産省の指針は、国際基準に沿った内容ではあるものの、法律にもとづくものではなく、未達成であっても罰則やペナルティーは設けられていません。生産者一人ひとりの自主的な取り組みに委ねられている部分が大きいことも、普及のスピードに影響しています。
JA北九州ファーム株式会社の養豚場も、自主的に取り組んだ施設のひとつです。母豚の大群飼育や自動給餌システムを導入し、アニマルウェルフェアの向上に取り組みました。
導入当初は、闘争による事故などが発生し、個体管理や体調不良への対応も難しくなりました。大群飼育という構造上の課題に加え、導入初期の飼養管理方法が十分に確立されていなかったことなどが原因です。試行錯誤を重ねながらも、家畜の福祉と生産性の両立を目指し、改善を重ねながらアニマルウェルフェアの推進に取り組んでいます。
出典:農林水産省「家畜の飼養管理等に関する技術的な指針に関するQ&A」(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-127.pdf)
畜産現場における初期投資の負担の大きさ
アニマルウェルフェアの導入には、飼養施設の改修や設備の見直しなど、多額の初期投資が必要となる場合があります。補助金などの支援策も限られていることから、経営体力に余裕のない農場ほど取り組みに踏み出しにくいのが現状です。
このように初期投資の負担の大きさは、畜産現場におけるアニマルウェルフェア導入の大きなデメリットとなっています。
採卵鶏の飼養においても同様です。たとえば、従来のバタリーケージから平飼いへ移行する場合、生産コストは約2.4倍になると試算されています。飼育スペースの拡大や管理作業の増加に伴い、人件費などの運営コストも増加することが、生産コストを押し上げる要因のひとつとされています。
出典:農林水産省「アニマルウェルフェアに関する意見交換会(第4回)議事概要」(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare_iken-17.pdf)
アニマルウェルフェア導入が経営にもたらすメリット

アニマルウェルフェアは、コストが増えるだけの取り組みではありません。むしろ、経営の安定につながる投資としてとらえる動きが広がっています。
生産性の向上
家畜のストレスを軽減し、快適な環境を整えることで、家畜が本来持っている能力を発揮しやすくなります。農林水産省の資料でも、健康な家畜による安全な畜産物の生産が、生産性の向上に結びつくと説明されています。
疾病リスクの低減
清潔な環境の維持や適切な栄養管理は、感染症などのリスクを抑えることにもつながります。ストレスの少ない環境で育った家畜は免疫力を保ちやすく、抗生物質などの過度な投薬に頼らない飼育管理が可能になります。病気による死亡や、繁殖・生産に適さないため早期に離脱する家畜が減れば、治療費や損失を抑えられ、長期的な収益の安定にも結びつくでしょう。
ブランド価値の向上
安全・安心な畜産物を選びたいというニーズに応え、アニマルウェルフェアへの取り組みを丁寧に発信することは、消費者や取引先からの信頼を得る手段にもなります。また、「動物に優しい持続可能な畜産」をアピールすることは、企業の強みにもなっていくでしょう。
実際、企業や自治体によってもさまざまな取り組みが進められ、付加価値の向上や価格転嫁、販路拡大を促進する重要な役割を果たしています。
●イオン株式会社
プライベートブランド「トップバリュ」において、アニマルウェルフェアに配慮した「平飼いたまご」を販売し、付加価値を高めています。消費者のアニマルウェルフェアへの理解や選択を促す取り組みとして評価され、グリーン購入大賞農林水産特別部門を受賞しました。
●山梨県
全国の自治体で初となる「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」を創設し、アニマルウェルフェアに配慮した畜産物を認証することで、生産者の取り組みを支援しています。商品の付加価値向上や販路拡大を後押しする効果も期待されています。
出典:農林水産省「『アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針』のポイント」(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/l_tiku_manage/attach/pdf/midori_checksheet-10.pdf)
出典:トップバリュ「日本におけるアニマルウェルフェアの浸透・拡大に貢献 – トップバリュの『平飼いたまご』の取り組みが第24回『グリーン購入大賞』の『大賞』(農林水産特別部門)を受賞」(https://storage.topvalu.net/assets/contents/pdf/884/news20231220182924128.pdf)
出典:山梨県「やまなしアニマルウェルフェア認証制度について」(https://www.pref.yamanashi.jp/chikusan/yamanashiaw.html)
畜舎の環境改善で取り組むアニマルウェルフェア
「5つの自由」のうち「不快からの自由」を実践するうえで見落とされがちなのが、畜舎そのものの暑熱対策です。真夏に熱せられたトタン屋根の下にいると想像してみてください。人間でも息苦しく感じるその環境に、家畜も日々さらされています。
近年の猛暑では、換気や散水だけでは限界があり、家畜の死廃リスクが高まっているとの指摘もあります。
対策のひとつとして注目されているのが、屋根の温度上昇を抑える工夫です。ある実証データでは、無塗装だった牛舎の屋根に遮熱塗装を施したところ、表面温度が約30℃低下し、合わせて1頭あたりの平均乳量も増加したという結果が報告されています。
暑熱対策は、乳量や産卵量といった生産性の維持だけでなく、猛暑による家畜の死廃リスクを抑え、生存率を守ることにも直結します。エアコンやミストで冷やす前に、まず屋根の温度上昇そのものを抑えることは、単なる建物の維持管理ではなく、家畜と経営を守るための投資といえます。
湧蒼塗装研究所では、遮熱性・防水性・耐久性を兼ね備えた屋根塗装により、畜舎の暑熱対策をサポートしています。多額の設備投資をせずに家畜の快適性を高めたいとお考えの方は、ぜひご相談ください。
アニマルウェルフェア実現に向けた3つの役割
アニマルウェルフェアの実現は、生産者だけが担うものではありません。消費者・生産者・行政のそれぞれが役割を果たすことで、少しずつ社会全体に広がっていきます。
【消費者】正しい知識を持ち、対応商品を選ぶ
アニマルウェルフェアについて正しく理解し、認証マークの付いた商品を選ぶなど、日々の購買行動を通じて生産者の取り組みを後押しできます。
【生産者・企業】現場で実践し、価値を発信する
日々の飼養管理の中でできることから始め、その内容を消費者や取引先にわかりやすく発信していくことが、理解と信頼を広げる一歩になります。
【行政】ガイドラインの策定や認知拡大を支援する
指針の整備や調査の実施に加え、教育・啓発活動や補助制度の充実を通じて、生産者が取り組みやすい環境を整えることが期待されています。
まとめ
アニマルウェルフェアは、世界的に避けて通れない潮流になりつつあります。日本でも農林水産省の指針が整備され、多くの生産者がすでに基本的な取り組みを実践しています。今後は、日々の管理に加え、対外的な発信も求められていくでしょう。
大切なのは、多様な飼養方式が認められている中で、それぞれの経営環境に応じて水準を少しずつ高めていくことです。一度にすべてを変える必要はなく、できるところから積み重ねることが、経営を守る力になります。
家畜を守ることは、経営を守ることにもつながります。まずは畜舎の暑熱対策のような身近な環境改善から、一歩を踏み出してみませんか。屋根塗装でその一歩を支える湧蒼塗装研究所が、ご相談をお待ちしています。