酪農危機とは?問題の背景や現状、主な対策を解説

酪農危機という言葉を耳にする機会が増え、自身の経営への影響に不安を感じている畜産経営者の方も多いのではないでしょうか。飼料や燃料価格の高騰、生乳の需給緩和など、経営努力だけでは避けられない外的要因が重なり、多くの酪農家が厳しい状況に置かれています。
本記事では、酪農危機が起きた背景や2026年時点の最新動向、今すぐ実践できる対策までをわかりやすく解説します。牛舎の暑熱対策など、経営改善につながるヒントもあわせて紹介します。
酪農危機とは
酪農危機とは、飼料や燃料のコスト高騰、子牛の価格暴落、そして生乳の需給緩和が同時に重なり、多くの酪農家が経営難に陥っている状態を指します。単なる一時的な不況ではなく、複数の要因が絡み合った、いわば三重苦ともいえる状況です。
中央酪農会議が2023年3月に行った調査では、全国の酪農家のうち84.7%が赤字経営と回答しました。赤字と回答した酪農家のうち、40%以上が1か月の赤字額を100万円以上と回答しており、経営の厳しさがうかがえます。
飼料や燃料の価格、生乳の需給バランスの変化など、酪農家自身の努力だけではコントロールしきれない要因が積み重なっています。生産基盤そのものが揺らぐ状況にあることこそ、酪農危機の実態です。
次の章では、こうした状況が生まれた背景を詳しく見ていきます。
出典:中央酪農会議「日本の酪農経営 実態調査2023 日本の酪農家の85%が赤字経営 その内、4割以上が月額『100万円以上』の赤字に」(https://www.dairy.co.jp/20230317.pdf)
酪農危機が起きている要因・背景
酪農危機は、なぜここまで深刻な状況になったのでしょうか。ここでは、主な要因を4つに分けて解説します。
飼料や燃料のコスト高騰
日本の酪農は、牛のエサとなる飼料の多くを海外からの輸入に頼っています。牛に与える濃厚飼料は、とうもろこしや大豆かすなどの穀物を配合して作られるため、配合飼料とも呼ばれます。この原料となる穀物は、ウクライナ侵攻の影響で国際価格が上昇しました。
ウクライナは、侵攻前の2021年時点でとうもろこしの輸出量が世界第3位、小麦は世界第5位という穀物輸出大国でした。その供給が不安定になったことで、輸入に頼る日本の飼料価格は大きく押し上げられています。
配合飼料の価格は2020年10月時点で1tあたり約67,000円でしたが、2023年1月には約100,000円まで上昇しました。およそ1.5倍に値上がりしています。
さらに、急速に円安が進んだことも、輸入コストの増加に拍車をかけました。中央酪農会議の調査でも、酪農経営を圧迫する要因として「飼料価格の上昇」を挙げた酪農家は97.5%にのぼります。
子牛の価格暴落
酪農家にとって、生まれた雄の子牛や交雑種の子牛を肉用として販売することは、大切な副収入のひとつです。ところが近年、この子牛の販売価格が大きく下落しています。
かつては1頭あたり10万円から15万円ほどで取引されていた子牛が、1,000円以下の値段しかつかないケースも出てきました。中央酪農会議の調査でも「子牛販売価格の下落」を経営への打撃として挙げた酪農家は91.7%にのぼります。
背景には、飼料価格の高騰によって、子牛を買い取って育てる肥育農家の購買意欲が下がっていることがあります。肉用牛としての需要の見通しがつきにくくなるなか、赤字を懸念した買い控えが進み、子牛価格の下落につながっているのです。
コロナ禍による需要減少
新型コロナウイルスの感染拡大にともなう学校給食の停止や、外食産業・観光業の低迷も、酪農危機の一因となりました。牛乳や乳製品の消費先が失われたことで、生産しても売れないという生乳の需給緩和が生じ、酪農家の収入減少に直結したためです。
バター不足対策の裏目
2014年から2015年にかけて、生乳の需給がひっ迫し、バターが手に入りにくくなるバター不足が社会問題となりました。この事態を受け、国は畜産クラスター事業、つまり酪農・畜産の生産基盤を強化するための補助制度を通じて増産体制の整備を後押しし、酪農家も設備投資を進めて増頭に取り組みました。
その効果が表れ、生乳の生産量が伸び始めた矢先、思わぬ事態が重なりました。2020年には新型コロナウイルスの影響で需要が急減し、2022年にはウクライナ侵攻や円安が重なったのです。
ようやく増産体制が整ったタイミングで、需要低下とコスト高騰が同時に襲いかかりました。酪農家にとっては、これまでの増産努力が十分に報われない状況に陥ったのです。
酪農家の6割は赤字・半数が離農を検討
このような要因が重なった結果、酪農経営の現場では深刻な事態が進んでいます。中央酪農会議が2024年11月に行った緊急調査では、2024年9月時点で赤字と回答した酪農家が58.9%にのぼり、47.9%が離農を検討した経験があると答えました。経営環境が悪いと感じている酪農家も83.1%にのぼり、現場の危機感の強さがうかがえます。
2023年3月時点の84.7%という数字と比べると、赤字の割合はやや下がったようにも見えます。しかし、依然として酪農家の約6割が赤字経営を続けているのが実情であり、危機的な状況は今も変わっていないといえるでしょう。
経営の厳しさは、離農という形でも表れています。全国の酪農家戸数は2024年10月時点で9,960戸となり、2005年の調査開始以降、初めて1万戸を割り込みました。前年同月比では5.7%の減少で、生産基盤の縮小がうかがえます。
経営を続けられない背景には、借入金の重さもあります。酪農家の86.0%が借入金を抱えており、そのうち6軒に1軒は借入金が1億円以上にのぼるという実態が明らかになっています。辞めたくても、返済のために経営を続けざるを得ない酪農家も少なくありません。
酪農家の減少は、地域で使われてきた堆肥の循環を断ち切ることにもつながります。農村そのものの持続性にも影響を及ぼしかねない、日本全体で考えるべき課題です。
出典:中央酪農会議「日本の酪農経営 実態調査2023 日本の酪農家の85%が赤字経営 その内、4割以上が月額『100万円以上』の赤字に」(https://www.dairy.co.jp/20230317.pdf)
出典:中央酪農会議「日本の酪農家が1万戸割れ」(https://www.dairy.co.jp/20241202.pdf)
【2026年】酪農をとりまく現在の状況
ここからは、執筆時点の2026年における最新動向を見ていきましょう。明るい兆しがある一方で、新たな懸念も浮かび上がっています。
乳価は上昇続き
酪農家の収入を左右する乳価とは、生乳の販売価格のことです。牛乳になる飲用向けと、バターやチーズになる加工向けの2種類に分けられ、地域ごとの生産者団体と乳業メーカーが、需給状況やコストの変動を踏まえて毎年交渉したうえで決定します。
2022年11月には飲用向け乳価が、2023年4月には加工向け乳価がそれぞれ引き上げられました。生産資材価格の高騰を受け、飲用向けは2022年11月・2023年8月・2025年8月の3回で1kgあたり合計24円、加工向けは2023年4月・同年12月・2025年6月の3回で1kgあたり合計19円引き上げられています。
こうした乳価の引き上げを受けて、酪農家の生産意欲は着実に高まっています。実際にJミルクは2026年6月、2026年度の生乳生産量の見通しを従来予想の725万tから731万tへ上方修正しました。
出典:農林水産省「総合乳価の推移」(https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/tikusan/attach/pdf/251126-7.pdf)
一方で飼料価格の高騰も継続
一方で、飼料価格の高騰には歯止めがかかっていません。JA全農は、2026年7月から9月期の配合飼料の供給価格について、前期に比べて全国全畜種総平均で1tあたり約3,700円値上げすると発表しました。
これは前期比でおよそ4%の上昇にあたります。価格は1tあたり91,000円程度で、約3年ぶりの高値水準です。値上げは3期連続となっており、円安による輸入コストの増加や国際情勢の影響が響いています。
つまり、乳価の引き上げによって売上は伸びているものの、飼料や燃料などのコスト増がその効果を打ち消してしまっているのが実情です。増収増益とまではいえません。増収でありながら利益が伸び悩む、あるいは横ばいにとどまるという厳しい構図が続いています。
出典:全国農業協同組合連合会「配合飼料供給価格改定について」(https://jaccnet.zennoh.or.jp/product/haigou/2026/p2606.html)
酪農危機を乗り越えるための対策
厳しい状況が続く酪農経営ですが、乗り越えるための取り組みも各地で進んでいます。ここでは、酪農家が実践できる具体的な対策を6つ紹介します。
飼料自給率を高める
飼料価格の高騰は、輸入依存という構造そのものが原因のひとつです。そこで有効なのが、飼料自給率を高める取り組みです。国は2020年度に約25%だった飼料自給率を、2030年度までに34%まで引き上げる目標を掲げており、国産飼料の利用拡大に取り組む酪農家へのコスト補てんなども進めています。
酪農家自身にできる取り組みとしては、自分の農場で栽培する牧草の比率を高めることや、国内の水田で生産される飼料用米を活用することが挙げられます。飼料用米は海外相場の影響を受けにくい選択肢です。
こちらの記事では、飼料自給率について解説しています。課題や自給率を高めるための具体的な取り組みも取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
エコフィードを実践する
食品の製造過程で生じるおからや食品残さなどを活用したエコフィードの導入も、コスト削減に有効な手段です。飼料のおよそ2割をエコフィードに置き換えた場合、飼料費を約14%削減できるといわれています。将来も安定して酪農を続けるためのコスト削減の手段として、注目されている対策のひとつです。
畜舎環境を見直して生産性を維持する
牛は暑さに弱い生き物です。気温が上がると、乳量の減少や受胎率の低下につながることが知られています。夏場の暑熱対策として、換気扇や送風機で牛舎内の空気を循環させる方法や、スプリンクラーによる散水などが従来から行われてきました。
こうした対策にあわせて注目したいのが、牛舎の屋根に施す遮熱塗装です。無塗装だった牛舎の屋根に断熱塗料WAKOECO® SHIELD(ワコーエコシールド)を塗装した検証事例では、屋根の表面温度が66.2℃から35.3℃まで、約30℃も低下しました。
同時に、平均乳量は1頭あたり32.7kgから33.7kgへと、約1kg増加したという結果も出ています。
塗装は一度行えば10年以上塗り直しが不要なうえ、空調にかかるコストの削減や、建材の劣化を防ぐ効果も期待できます。実際に、材料費の2分の1を国の補助金でまかなった施工実績も多数あります。暑熱対策を検討する際は、あわせて確認してみるとよいでしょう。
湧蒼塗装研究所では、こうした遮熱塗装をはじめとした畜舎の環境改善に関するご相談を承っております。牛舎の暑さでお悩みの場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ソーラーシェアリングを導入する
放牧地などを活用したソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の導入も、経営の安定化に役立つ選択肢です。太陽光パネルの下で放牧や農作業を続けながら発電を行い、発電した電気を自家消費したり、売電による副収入を得たりすることができます。太陽光パネルがつくる日陰が家畜の暑さ対策になるという利点もあります。
乳製品の消費を喚起する
酪農家の努力だけでなく、消費者の理解や行動も、酪農危機を乗り越えるためには欠かせません。中央酪農会議の調査によると、月1回以上、牛乳などを購入している生活者の98%が、国産の新鮮な牛乳を飲める環境を維持したいと回答しています。
こうした消費者に向けてSNSなどで情報発信し、国産牛乳・乳製品の消費喚起につなげていくことも大切な取り組みです。
また、SNSは消費者への発信だけでなく、生産者同士が情報を共有し、つながるための有効な手段でもあります。一方、各地域では酪農家同士の情報交換の場が減っているという声もあります。このような状況だからこそ、地域を超え、酪農家同士が日頃の取り組みや課題、実践事例などを共有することは、新たな気づきを得るきっかけとなるはずです。
その学びが、設備や経営手法の見直しにも役立つと期待されます。
農林水産省の支援事業を活用する
酪農家が抱える課題は、それぞれ異なります。そのため、農林水産省ではさまざまな支援事業を展開しています。
生産基盤の強化や省力化、後継者問題への支援など、経営課題に応じた支援を受けられる可能性があるため、活用できる制度がないか確認しておくとよいでしょう。畜舎の暑熱対策についても、事業内容によっては支援の対象となる場合があります。
出典:農林水産省「持続的酪農経営支援事業」(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/jizokutekirakunoukeieisien.html)
まとめ
酪農危機は、飼料や燃料のコスト高騰、子牛価格の暴落、生乳の需給緩和が重なって生じた根の深い問題です。乳価の引き上げという明るい兆しはあるものの、飼料価格の高騰は続いており、予断を許さない状況です。
そのようななかでも、飼料自給率の向上やエコフィードの活用、畜舎環境の見直しなど、持続可能な経営体制を構築するために今すぐ取り組める対策は数多くあります。なかでも牛舎の遮熱塗装は、暑熱対策と生産性の維持を同時に叶える、費用対効果の高い投資です。
湧蒼塗装研究所では、牛舎や畜舎の暑熱対策として、遮熱塗装による環境改善をご提案しています。現地調査やお見積もりから施工後のフォローまで対応いたしますので、牛と経営を守る第一歩として、ぜひお気軽にご相談ください。